「すまなかったな、豊」
玄関ホールで綾人は申し訳なさそうに微笑みを浮かべた。
豊が首を振ると、いや、と呟く声が返ってくる。
「結局俺も何もわかっていなかった、ここに長くいるお前ですら難しいことが、すぐ叶うはずもない」
「総代」
「―――なあ、豊、聞かせて欲しいんだが」
お前から見たペンタファングとは、どのような者達なんだ。
問いかけに即答できない、自分はなんて情けないんだろう。
交歓留学生が聞いて呆れると、自嘲の声が響いている。
「俺が、見てきた彼らは」
月詠学院退魔班、通称ペンタファング。
陰に潜み、闇を走り、命を懸けて天魔を討伐する者達。
取り立てて良くしてもらったわけでは無いけれど、酷い目に合わされたこともない。
―――少なくとも、交歓留学生としては。
薙との一件は豊自身の問題であり、ましてや今ここで口上に乗せることなど出来るはずもない。
自分は、ペンタファングの一員としてただ共に戦場を駆け回っていただけだ。
それ以上に語れるようなことなど、何一つ思いつかない。
今は仲間だと言うことすらはばかられるような気がして、豊は俯きがちに言葉をつなげた。
「天魔討伐のスペシャリストで、任務には使命感を持ってあたっています」
「それだけか、彼ら自身についてはどうだ」
「―――悪い、奴らじゃ、ありません」
それは、半ば豊自身の願いのようでもあった。
「そうか」
綾人が静かに答える。
出入り口の開け放たれたガラス扉から風が吹き込んできて、二人の髪を揺らしていく。
忍び込んできた寒気が、心の奥底まで冷やしていくようだ。
軽く身震いすると、温かい掌がそっと腕に添えられた。
「豊」
顔を上げるのと、抱きしめられたのとは殆ど同時だった。
驚いて硬直する豊の髪をそっと撫でて、背中をポンポンと叩いてから綾人は両手を離す。
「今はまだ辛いかもしれない、だが、人の心に永久氷河など存在しないんだ」
「せ、先輩」
「頑張ってくれ豊、お前なら、必ずや道を切り開くことができる、俺は信じている」
触れていた体温がまだ残っているようだった。
冷たい指先が頬に触れて、初めて赤面していたことに気がつく。
「お前なら、きっと大丈夫だよ」
綾人は微笑んで、頑張れよと頭を二、三度軽く叩いた。
それだけで十分励まされたような気がしてしまい、たやすい自身につい笑みが浮かんでしまう。
綾人はうんと頷いて、くるりと踵を返した。
「では、俺はこれで帰る、お前も体には気をつけて、無茶はするなよ」
「綾人先輩もお元気で、その、みんなにもよろしくと」
「伝えておくよ、じゃあな、元気で」
軽く片手を上げてから、背中はそのまま遠ざかっていった。
名残惜しいような、切ない気持ちが胸に満ちている。
午後の日差しに消えていく姿を見送っていると、冷たいコンクリート製の校舎の中はますます寒さが増すようだった。
どこにも逃げ場のない、重苦しい気配だけがそこにあった。